A Darkening Room


(エレカシのカバーがあまりにも良かったので、久しぶりに歌詞を勝手に訳してみました。訳してて気づいたんですが、やっぱりユーミンの比喩使用力は高いです。「現代の吟遊詩人」と言われるだけあります。)


  翳りゆく部屋 作詞作曲:荒井由美
 
窓辺に置いた 椅子にもたれ
  あなたは 夕陽見てた
  なげやりな別れの気配を
  横顔に ただよわせ
  二人の言葉は当てもなく
  過ぎた日々をさまよう
  振り向けば ドアの隙間から
  宵闇が しのび込む
  どんな運命が 愛を遠ざけたの
  輝きは戻らない 私が今死んでも

  ランプを点(トモ)せば 街は沈み
  窓には 部屋が写る
  冷たい壁に 耳を当てて
  靴音を 追いかけた
  どんな運命が 愛を遠ざけたの
  輝きは戻らない 私が今死んでも

  どんな運命が 愛を遠ざけたの
  輝きは戻らない 私が今死んでも


  試訳
  
  A Darkening Room

You looked at the setting sun,
leaning back on the chair by the window.
With an air of desperate farewell
carelessly floating on your silhouette.
Our words drifted over the past days
With no destination in mind.
When I looked back,
The evening dusk sneaked into the room
Through the the opening left by the door.
What kind of fate tore our love apart?
The glow would never come back.
Even if I fall dead right now.

When I lit the lamp, the city disappeared
Into the darkness.
The window relfected the room.
I place my ear against the cold wall,
listening to the distant footsteps.
What kind of fate tore our love apart?
The glow would never come back.
Even if I fall dead right now.

What kind of fate tore our love apart?
The glow would never come back.
Even if I fall dead right now.


歌うときは、「どんな運命が」の「が」という破裂音をどう歌うかが勝負ですが、エレカシ宮本さんの声の出方は物凄く、「本当に破壊されてしまった」感が出ています。歌詞では、エレカシの宮本さんも言っていたとおり、「輝きはもどらない 私が今死んでも」の箇所が圧巻です。これは凡人に書ける詩じゃない。

自分が死ぬということは、感情の認識主体となる存在も同時になくなる。死んで輝きが戻る場合、誰の心に戻るかというと、これは相手の男性に戻ることを期待していることになる。しかし、もう恋愛感情のピーク時の輝きは、彼女が今死んだとしても彼の心の中に戻らないということは、今後永久に戻る可能性はないということになる。

もしくは、自分という存在が今この瞬間に消えてしまうことにより、自分という解釈の主体がなくなり、いろいろな辛い思い出を記憶に付け加える人間もいなくなるため、二人の間の恋愛の思い出が美化されて、認識主体がいないまま輝きそのものが残るかというと、そうでもないとこの歌い手は言う。

つまり、二人の間に愛があった時期の輝きは、認識主体がいようがいなかろうが、完全に消えてしまったことになる。愛が永続しなかったことの喪失感をこんなに的確に言い表した歌詞が、ほかにあるだろうか。

野暮な解釈を付け加えてしまったが、恋愛の輝きと喪失体験を短い歌詞とメロディで言い表したユーミンは、凄い歌手だと思う。観念的にではなく薄暗くなりつつある部屋という比喩で表現しているのも秀逸。