Samurai Expendables-『十三人の刺客』感想

 

十三人の刺客』を観てきた。



以下、結末までネタバレ感想。未見の方は、読まない方がいいと思います。



「斬って斬って、斬りまくれぇい!!」



役所広司のこの台詞に象徴されるように、これは消費の欲動に基づいた映画である。



人命を消費して悪虐の限りを尽くす将軍の基地外弟を討ち取るために、侍たちが自分の命を捨てる話。



時は19世紀半ば、徳川幕府末期の話。将軍の腹違いの弟という、江戸幕府の巨大な消費構造の頂点に近い人物を、中間管理職たる侍たちが狙い撃ちする話。参勤交代の途中に討ち取るのだが、参勤交代という制度自体、大名があまり力を付けないように人力・物資の消耗をさせる目的で徳川家が生み出した制度であるため、お上による臣下の消費と言えなくもない。



江戸時代の身分制度において下層、つまり搾取の対象であった農民や商人は物語を動かす登場人物として出てこないため、庶民たるわれわれは安心して楽しめる作りである。しかし作中頻出する「殿への忠義」や「ご正道」といった抑圧的な大義名分を、「企業の利益追求」とかいうキーワードに適当に脳内変換して観れば、現代企業社会の勤め人の方々でも、「首脳陣の理不尽を正す」ドラマとして楽しめる。



「そなたらの命、この新左が使い捨てにいたす」= "You’re expendables from now on.”



クライマックスとなる宿場のシーン。十三人の刺客が将軍の弟とその警護の者たちを討ち取るために用意した刀や弓矢が、ぶっさぶっさと藁ぶき屋根に突き刺さっている。「さあ、これから大量殺戮、命の大量消費が行われますよ」という合図だ。



で、景気よく約二百人対十三人の闘いが始まる。



勝ち目ゼロに近い狂気めいた闘い。それに十二人を引きずり込む役所広司が皆の衆を前ににこやかに吐くのが、上記の「使い捨て」宣言である。



新左(役所広司)と将軍の弟(稲垣吾郎)は、基本的に同じ人種である。要するに、死ぬ前に生を燃焼させたいと思っている。



両方とも、命を張った賭けをしても構わないと思っている。それが面白ければ。



ゴローちゃんのあまりの非道な行いに、役所広司が思わず笑い出して言う台詞:「面白い。(ぶるぶる震える腕を押さえて)いや、これは武者震いでござる」。



主君を何とか生き残らせようとして安全策を選ぼうとする家臣にゴローちゃんが言う台詞:「迷わず愚かな道を選べ。その方が面白い」



監督自身が、役者のパブリック・イメージを使って遊んでいる節がある。その最たるものが、国民的アイドルであるSMAPメンバー稲垣吾郎氏である。



四肢を切断され舌を切られた村長の娘が、「一族の他の者はどうした?」と聞かれ、口に筆を咥えて書いた文字。「みなごろし」。



「みなゴロー氏」って意味ですよね、三池監督 ?



宿場を何百両もの大枚はたいて買い取って造る大がかりな主君討ちの仕掛け。


それはみな、暴君カリギュラたるゴローちゃんを討つためなのだ。



すべてが「ゴローのため」に集約していく。



ゴローちゃんもそれを涼しい顔で受け止めている。



宿場に追い詰められても、伊勢谷友介演ずる山賊が石に布を巻いた武器を振り回しているのを観察するショット。



「おや、普通の侍とは毛色の違った面白い奴がおるじゃないか」と、あくまでも傍観者目線。



ゴローちゃんはずっと傍観者であった。将軍の腹違いの弟ということで、与えられるものをただ消費するだけの立場。



それが今や、自分の命を取ろうと大掛かりな仕掛けまで組んで、腕の立つ侍たちが襲ってくる。わくわくするスリルに、いてもたってもいられなくなり、「わしが老中になったら、ふたたび戦の世にしようぞ」と目を輝かせて言う。言われた方の市村正規はさすがにポカンですよ。ちなみにゴローちゃんの家臣役の市村正規だけ、周りが自分勝手に命を派手に燃やしたい奴だらけな中、唯一消費行動に走らず、「現状維持」をモットーとしている手堅い人間、という設定。



ゴローちゃんが暴虐の限りを尽くしていたのには、「生きている実感が欲しい」というのが根底にある。ゴローちゃんは自分を討ち取ろうとしている役所広司に、「礼を言うぞ。今まで生きてきた中で、いちばん楽しかった」と言う。



この場面で、倒れて泥まみれになったゴローちゃんの顔の横、ずーっと和式便所が映ってるんですよ。当然その後、役所広司首チョンパになるんですよね。「ゴローちゃんの首、ゴロゴロ転がったら面白いっしょ?」と監督は思っていたに違いない。しかし、首チョンパになったゴローちゃんの首が転がって便所の中にホールイン・ワンするのかと思えば、そうではないんですね。なぜだろう。物語のカタルシス的にはそうした方が絶対正しいのに。



血と汚泥で染まった宿場の光景。凶悪な杭がゴロゴロ転がっている。ゴローちゃん感に溢れた映画でありました。



オチが下らないダジャレになってしまいましたが、役者も演出も舞台美術もすばらしい映画です。必見!!





特によかったポイント覚え書き:
・退屈し切った表情で非道な行いをする稲垣吾郎
松方弘樹の刀さばき (ほかの役者とは段違いにシャープ)
・太平の世で命の捨て場所を探す役所広司の狂った論理