2012年8月に観た映画・DVD

8月の鑑賞メーター
観たビデオの数:13本
観た鑑賞時間:1130分

ダークナイト ライジング [DVD]ダークナイト ライジング [DVD]
凄く面白かった。ハンス・ジマーによるベインのテーマが映画全体を支配している。ベインの冒頭での飛行機アクションと、バットマンの地下牢アクションが、「円筒の中での上昇・下降運動」という意味でオーバーラップ。仮面についての考察を行った映画でもあり、自分を隠すための仮面を、ブレイクも、ブルースも、ゴードンも、そして黒幕のあの人も被っている。終盤、悩み深い青年だったバットマンの吹っ切れた様子が印象深い。突破口を与えるのが、真実を告げる執事のアルフレッドと、苦痛と試練を与えたベインというのもうまくできていると思った。
鑑賞日:08月01日 監督:クリストファー・ノーラン


アメイジング・スパイダーマン [DVD]アメイジング・スパイダーマン [DVD]
主人公がスケボー、フード、コンタクト(普段)、スマホでだいぶアップデートされてた。ヒーロー、ヒロインそれぞれ、前作よりも葛藤が薄まったとは思う。最後、彼が街に認められ、クールさを称えられていることを示すためにグラフィティを使った演出が粋。死を賭した約束を“Those are only for the best kinds.”とあっさり覆す欲望への弱さなど、若いなあーと思った。テーマが「ヒーローとは何者か」ではなく、「自分とは何者か」であり、アメコミじゃなくてジョン・ヒューズの学園映画の方に近い気がする。
鑑賞日:08月01日 監督:マーク・ウェブ


ヨコハマメリー [DVD]ヨコハマメリー [DVD]
横浜で30年間暮らし故郷に帰った街娼メリーさんについてのドキュメンタリー。彼女の行方を追うというよりも、彼女が横浜の伊勢佐木町でどう暮らしていたかを、写真、証言から描いている。誇り高いメリーさんの生き様に敬礼したくなった。根岸屋を中心に切り取られる戦後の横浜の風景も魅力的。元々は末期癌におかされていたシャンソン歌手永登元次郎さんをクロースアップした『LIFE』という題名だったのを、『ヨコハマメリー』と改題し、追加撮影、編集して、この作品になった。彼が歌う『哀しみのソレアード』、『マイ・ウェイ』の美しさ。
鑑賞日:08月18日 監督:中村高寛


女囚701号 さそり [DVD]女囚701号 さそり [DVD]
恋人に裏切られ投獄された松島ナミ。リンチ、懲罰労働、独房での拷問など、想像しうる限りの苦しみを、復讐のために超人的な意志で耐え抜く。口数が少なく、ほとんど台詞がないなか、眼力だけで怒りと恨みを表現する梶芽衣子が凄い。虐げられ抜いた女性が権力者の男どもに復讐を試みるアンダードッグの物語。鋭い目付きの扇ひろ子と、酷薄そうな横山リエも眼福。ナミが本性に目覚める部分、シャワー室で女囚が般若の形相になる場面での、緑と赤のギラギラした照明が印象に残る。日の丸を経血に見立てるシンボリズムは、何を表現していたのだろうか。
鑑賞日:08月20日 監督:伊藤俊也


遊星からの物体X [DVD]遊星からの物体X [DVD]
南極大陸という閉鎖的な状況で、アメリカの観測隊が、別の生命体に姿を変える能力を持つ未知の地球外生物と戦う。SFX担当のロブ・ボッティンによるクリーチャー造形が素晴らしい。特に解体・変形の場面。(1982年の時点でボッティンはまだ22歳)。「仲間がすでに精神を乗っ取られているのでは?」と疑心暗鬼を高める展開に引き込まれる。今の映画のようにスピーディな話の進め方ではなく、要所要所で暗転しているのが逆にサスペンスを高めているように思う。マクレディ役のカート・ラッセルは、世界一バドワイザーが似合う俳優ではないか。
鑑賞日:08月21日 監督:ジョン・カーペンター


Prince of Darkness [DVD] [Import]Prince of Darkness [DVD] [Import]
面白かった。Dr. Birack, Walterなど、東洋人のキャストがいい味出してる。PCの画面に出て来る"I LIVE!"のメッセージは後の作品への布石か? 『ハロウィン』ではルーミス博士(Dr. Loomis)を演じたドナルド・プレザンスがここではルーミス神父(Fr. Loomis)を演じる。彼の名前には作中にもある通り、"Loony Tunes"(「狂った奴、気違い」アメリカのアニメシリーズの名前)の意味とともに、"loom"(動詞「大きく不気味に現れる」)の意味もあるのかもしれない。虫がものすごい嫌な感じで蠢く映画だった(褒め言葉)。"The Thing"、 本作、"They Live"といい、「地球人という宿主に地球外生命体なり悪魔なりが乗っ取りを試みる」というのは、カーペンターのテーマなのかと思う。「登場人物が眠っているあいだに夢の世界から脳内の神経を通じて電波を受け取っている」場面が、粒子の粗い映像で表現されている。電波系の源流の一つか? 登場人物が夢として受け取るメッセージの原文:"We are using your brain's electrical system as a receiver. [...] We are unable to transmit through conscious neural interference. You are receiving this broadcast as a dream." 「夢=媒介(media)=放送」というのは、70、80年代に流行ったマクルーハンの影響もあるのではないか。「壁の中から黒髪の女が這い出て来る」、「悪魔に憑かれた女が鏡の中に入って行こうとする」、「白い光に触れる」点など、高橋洋監督の作品を思い出させた。鏡一枚で禍々しい物と隔てられている、という感覚。善悪の存在ともに、女性をtransmitter(伝達者)とするのには、何か意味があるのだろうか。 
鑑賞日:08月22日 監督:John Carpenter


They Live [DVD] [Import]They Live [DVD] [Import]
"THEY LIVE"というメッセージがグラフィティの一部として最初に表れ、そのままタイトルバックにもなっている。"They Live. We Sleep."など、壁に書かれた落書きと広告のメッセージ(と主人公がグラサンをかけたときに気づくメタ・メッセージ)の対立がまず目につく。左手の薬指に指輪があるから結婚していると思われるのだが、背景が明らかにされない主人公。大切なグラサンをゴミ箱に隠すなど、行動原理も地球に来たての異星人のようだ。1958年に何が起こったのか、ロメロへの言及など、気になることが多い。原作はRay Nelsonの"Eight O'clock in the Morning." 読んでないからよく分からないんだけど、劇中異星人・宇宙人という言葉は使われず、エンドロールではあの骸骨みたいな人たちは"ghoul"(悪鬼、悪霊)と呼ばれている。"He who has the gold makes the rules"(金を持っている奴がルールを作る)という世界観。「バイトは労働者じゃないから残業代を支払う必要はない」と、法律に独自の解釈を加えていた外食チェーンを思い出した。グラサンをかけたら見えるようになるメタ・メッセージが身もふたもなかったのでメモ。"OBEY", "MARRY AND REPRODUCE", "NO INDEPENDENT THOUGHT", "CONSUME", "BUY", "WATCH TV"."SUBMIT". "NO THOUGHT", "STAY ASLEEP", "DO NOT QUESTION AUTHORITY", "CONFORM", (紙幣に書かれていた)"THIS IS YOUR GOD".TV局が巨大アンテナで電波を発しており主人公は裏切り者を撃った上アンテナを破壊し、中指をカメラに向け突き立てるエンディング。裏切り者はテレビ局に勤めているという設定だが、"ghoul"には姿を変えていない。巨大メディア側の人間=元から腐っているという皮肉か?裏切り者が主人公に"Don't interfere."(「干渉するな」)と言うんだけど、前作『パラダイム』でも意識を通じてメッセージを届けることを、"Neural interference"(神経を通じての干渉)と言っていた。この映画も非常に観客の価値観に「干渉する」映画だと思う。「いまの自分達の状態は、巨大資本により消費を促され、同じ物を買い求めさせられ、考えることを止めさせられているのだ…」というような「覚醒」の感覚を与える。確かにこれは「社会派映画」だと思った。
鑑賞日:08月22日 監督:John Carpenter


Village of the Damned [VHS] [Import]Village of the Damned [VHS] [Import]
原作はJohn Wyndhamの""The Midwich Cuckoos." 原作の題名に「カッコウ」が使われているのは、この鳥の「130種のうち50種ほどが他の種の巣に卵を産み子育てをさせる」(ジーニアス英和)からだろう。ある田舎町で10人の女性が妊娠し、同時に出産。しかし生まれたのは、感情や個別の魂を持たず、一つの精神を共有し、光る目で自在に大人達を操る子供達だった。マーラ役の子役がいい。クリストファー・リーヴが「血の海ができるぞ」と言うが、本当に後のシーンで血の海を映してた。有言実行の監督だ。共感能力がない存在は、他者と共存できず、周囲を搾取するだけの存在に堕す、ということを描いていると思う。クリストファー・リーヴの"You should feel!"という台詞が印象に残る。意志の力で心の中に煉瓦の壁を作り、子供達に考えを読まれないようにする主人公。彼が仕掛けた現実の爆発と、その煉瓦の壁が爆発する瞬間が同じ、というクライマックスの作り方が見てて格好いい。サイキック・ウォーの緊迫感!子役の顔力もあると思う。
鑑賞日:08月23日 監督:John Carpenter


バットマン ビギンズ [DVD]バットマン ビギンズ [DVD]
恐怖を克服するために自分が恐れるもの(コウモリ)となり、ゴッサムに平和をもたらすために、犯罪者にとっての「根源的な」(elemental)恐怖となるブルース・ウェイン。従って犯罪者の前に初登場する際には、ホラー映画的演出がなされている(失敗に終わっているが)。バットマンの装備を揃える過程が非常に楽しい。恐怖の克服、橋、警官からの逃走劇、奈落への落下など、『ダークナイト・ライジング』で反復・回収されるテーマを確認。綺麗な顔をしたキリアン・マーフィが、醜く蛆虫が湧くずだ袋を被ったスケアクロウになる対比の妙。【印象に残った台詞】(Thomas Wayne) "Why do we fall, Bruce? So we can learn to pick ourselves up." (「なんで私達は倒れるんだと思う、ブルース? 立ち直り方を学ぶためさ」)、(Ducard) "Now, if you excuse me, I have a city to destroy." (「失礼するよ、街を一つ滅ぼさなきゃならないんでね」) ラーズ・アル・グールの言ってた"grace"とはこのことか…。一作目だから当然なのかもしれないが、バットマンに変装するときの高揚感は三部作でいちばんあった。ケイティ・ホームズの白目演技がいい。忍者や忍術が出て来るので、ちょっと日本趣味。最初の自警活動から戻ったブルースにアルフレッドが緑色の青汁っぽい飲み物を差し出すとこにも、日本ぽさを感じた(普通の野菜ジュースかもしれないけど)。パーティでブルースが客を"free loader"(たかり屋)と言って追い返す場面ですでに、"two face"(裏表を持つ)という言い回しが出て来る。次作への布石か。タキシードを着てパーティで客を罵倒する場面では、『アメリカン・サイコ』を思い出した。ベストシーンは、「鎧を身に着けたリーアム・ニーソンクリスチャン・ベールが真顔で対峙」する場面。見返して、1作目のテーマは「下降」、2作目のテーマは「深沈」、3作目のテーマは「上昇」だと思った。テーマ的には非常に一貫している。リーアム・ニーソンゲイリー・オールドマンが非常に品よく綺麗に撮られていたので、脇役の男性俳優をうまく撮る監督だなあと思った。「なぜチケット代の高そうなオペラ劇場を出たらいきなりスラム街なの?」「なぜレイチェルは車を運転しているのに、襲われた時だけ深夜の地下鉄に乗っていたの?」など、疑問も残る。ノーランはあまり辻褄合わせなど考えない、撮りたい映像の方が先にある人なのだろうか。最後、レイチェルがブルースのマスクを付けていない顔に触り、"This is your mask"と言う。「ゴッサムに平和が戻ったときに、あなたは本当の顔に戻れるのだ」と。ということは、1作目の最後では、ブルースはまだ仮面を被ったままである。1作目で、"Masked hero"としての方が本当で、マスクを外した素顔の方が仮面、世を欺く仮の姿、という反転が生じた。「金持ちの放蕩息子」という擬態を演じることで、「バットマン」という本当の姿を隠す。この3部作は、一人の青年が仮面を付けることでトラウマと向き合い、恐怖の克服の仕方(1作目)、恐怖との共存の仕方(3作目)を学び、仮面を外せるようになるまでの過程を描いた物語と考えられる。1, 3作目で、ヒーローの誕生と消滅を描いている。しかしバットマン精神内部の「恐怖」という観点から考えると、『ダークナイト』はどういう位置づけなのか…。まだよくわからない。今回見直して、「二重の仮面」、「バットマンの恐怖」というテーマが確認されたのでよかった。マスクを付けて秘密の自警活動をするために私生活全部を仮面生活とする、という「二重の仮面性」は、さまざまなヒーロー物語の必然だと思うが、物語構造に自覚的に組み込まれているのは、この映画で初めて見た(でもほかの監督のバットマンを観て確認したわけではない)。
鑑賞日:08月24日 監督:クリストファー・ノーラン
バットマン ビギンズ [DVD]バットマン ビギンズ [DVD]
鑑賞日:08月24日 監督:クリストファー・ノーラン



デビル [DVD]デビル [DVD]
"Night Chronicles"という三部作の一作目らしい。80分てのが素晴らしい!話の展開が速い。ただ、物語進行と語り部の語りを同時に行うのは、「言葉だけで説明しすぎでは」と思った。でも削除されたシーンを見たら、「確かにこれはいらんわ」という登場人物のキャラ説明的な場面ばかりで、切って正解。ある人物が語り部となり、「祖母から聞いた悪魔の物語」をナレーションしながら話が進むのだが、「観客の一人が助けようとして死ぬ」の理由が説明されないので合点が行かない。ルールがあっても理由がないホラー映画のパタン。
鑑賞日:08月24日 監督:ジョン・エリック・ドゥードル


おとなのけんか コレクターズ・エディション [DVD]おとなのけんか コレクターズ・エディション [DVD]
原題は"Carnage"(大虐殺、[集合的に]大量の死体)。ある出来事を発端に、良識的なはずの二組の夫婦が会合し、「おとなのけんか」に発展する。70分という短さだが、場面転換が全くないので一幕劇のよう。エスプレッソ、コーヒー、スコッチ、ぬるいコーラと、飲み物映画でもある。男性同士のホモソーシャルな関係の朗らかさと暴力性を同時に描いている(ジョン・C・ライリーの言う"army buddy of mine"の世界観)。軋轢を引き起こす悪徳弁護士の、「成長すれば暴力の代わりに法律を使う」という台詞が印象に残る。
鑑賞日:08月31日 監督:ロマン・ポランスキー


アナザー Anotherアナザー Another
橋本愛が非常に可愛い。彼女の人形っぽい顔立ちがなかったら成立しなかったのでは、と思うほど凄まじい美少女ぶりだった。前半青春映画、後半ホラー映画という感じ。特に後半、気が強く声の大きな女子生徒が、橋本愛やほかの女子生徒に抱く嫉妬が怖い。あとルールを設定してそれがどんなに残酷でも遵守する様子。山間部の盆地を俯瞰で映し、隔絶された世界を設定しているので、キング小説の「よそ者が田舎にやって来て、独特のローカル・ルールに悩まれる」ホラーの中学生版ぽかった。あの終わり方だと、2も作られるのだろうか。原作も読んでみる。
鑑賞日:08月31日 監督:古澤健

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