先生、大統領は得点に入りますか?!−『デスレース2000』感想

DVDで、『デスレース2000』を観ました。
(Dir. Paul Bartel, Death Race 2000, United States, 1975.)

面白かった! 自分の中のカルト映画ベストテンには確実に入ります。以下、内容に触れています。

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時は西暦2000年。大統領の独裁国家と化したアメリカでは、年一回殺人レースが大衆の娯楽に供されていた。今年の参加者は、嫌われ者マシンガン・ジョー(やくざ者、演じるのはブレイク前のシルベスター・スタローン!)、暴君ネロ(ローマ人)、マチルダ(女ナチ)、カラミティ・ジェーン(カウガール)、そして優勝候補の大本命である大衆の人気者フランケンシュタイン。彼は過去何回も、レース中の大事故による体のパーツがちぎれるほどの怪我を乗り越えてきたのだった。ドライバーにはそれぞれ"ナビゲーター"と呼ばれる道案内役がついているが、今年のフランケンシュタインのナビゲーターは、大統領暗殺を企てるレジスタンスの首謀者トマス・ペイン夫人が送り込んだアン。果たしてルール無用の殺人レースを生き残るのは誰か…?!

画面構成の端々から並大抵ではないセンスを感じます。
ボアダムズのアートワーク的センスを感じさせる、冒頭のタイヤと髑髏のコラージュからしてかっこいい。
ばかでかいラッパのファンファーレから映画は始まります。
地面近くの低い目線に置かれたカメラは、車が走り抜ける際の疾走感と風圧をあますところなく捉えます。
各人のキャラクターを表す派手な衣装や牙、トミーガンなどが付いた頭のおかしい装備の車、派手なスーツを着た色眼鏡のリポーターが、画面のうさんくささを際立たせます。

全米大陸横断レースでニューヨークからLAまで走り抜けるのですが、人を殺したら得点が入るというむちゃくちゃなルールです。
赤ちゃん、老人など、殺すのに倫理的に抵抗のある人々ほど高得点です。

しかし主役のフランケンシュタイン(以下フランケン)は、自分の友人の病院長が用意した車椅子に乗った老人は轢かないなど、ポリシーを持ってるんですよね。かっこいい。
彼は若き日のデイヴィッド・キャラダイン(『キル・ビル』のビル)が演じています。
体が半分機械という設定なので、常時ウォーズマンのような黒ヘルを被っていて正直おかしいのですが、キャラダイン氏は沈着冷静かつミステリアスな謎のヒーローとして常に真顔。観ているうちにだんだんかっこよく思えてきます。黒ヘルに黒マント、素敵やん!
ただし、ホテルの部屋でナビゲーターと黒ブリーフ一丁で踊るシーンはどうかと思ったゼ!

フランケンシュタインは不死身のヒーローとして大衆に崇められているのですが、「ヒーロー性と轢殺でポイントを稼ぐというのが両立するのか」という疑問を持ちながら観ていました。

しかし彼が轢き殺す人種というのが、あまり倫理的抵抗感を抱かせない人種として設定されています。
たとえば、大統領の腰ぎんちゃくである司祭。*1
たとえば、「あなたを理解しています」(※根拠は夢や星座占い)と言い、彼への愛を捧げるために殉教者の格好で自ら道路中央に立つファンクラブ会長。

子供はダメだが役人はいいなど、徐々に主役のフランケンシュタインの基準がはっきりしてます。彼がルールに則ってプレイするだけではなく、破天荒なやり方でレースのルールを作っていくさまも見所です。

レジスタンスの一員であるアンと謎の目的を持っているらしいフランケンがどう絡んでいくのかが映画の軸の一つとなりますが、「弱そうなレジスタンスをヒーローが救う」というありきたりな展開かと思いきや、フランケンはレジスタンスも容赦なく轢き殺します。果たしてフランケンの真の目的はなんなのか…?

しかしこの映画の醍醐味は、そういった物語上のミステリーではなく、やはり猛スピードで疾走する車です。
崖の前で寸止めや、道路上に斜めに置かれたカメラに猛スピードでフレームインしてくる車など、カーレース映画の醍醐味が存分に味わえます。
終盤になると、逆光で撮られたシーンなどあり、アメリカン・ニューシネマを思わせます。

ラスト、鋭角的な斜めの角度でカメラが切り取るのは、民衆のチャンピオン(代表者)として拳を挙げるフランケンシュタイン。「あなたは暴力性によってヒーローになったことをどう考えてるんですか?!競争と殺戮はアメリカの文化だぞ!」と詰め寄るリポーター。

果たして暴力によって目的を遂行することは、いいことなのか。たとえ目的が善なるものだとしても。

1970年代には、ここまでの問いかけとそれに対する答えを準備しないと殺人レースを売り物にした映画は公開されなかったのかと、感慨深くなりましたね。

しかしそんな小難しいことは、この圧倒的な映像の快感の前ではどーでもいい! 最速で疾走する車と、サイケデリックな色彩構成で、ゲラゲラ笑うしかない爽快感を残す映画です!何度でも見直したり、BGVにすると思いますね。



デスレース2000 [DVD]

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*1:大会役員がレース参加者に轢殺されることなどなかったので、果たして彼が得点になるのかどうか最初は判然としません。レース司会者が司祭を悼む追悼スピーチをしている最中に大会主催者から回ってきたメモを読み、「フランケンシュタイン得点50ポイントです!」と言う場面はサイコーでした。