Apes That Can Say .....−『猿の惑星 創世記』感想

猿の惑星を観てきました。(Dir. Rupert Wyatt, Rise of the Planet of the Apes, United States, 2011.)

今回は、『猿の惑星 創世記』そのものではなく、『猿の惑星』シリーズで繰り返し出てきた"No."という言葉について考えます。

                                              • -

最初にこの"No."という台詞を意識したのはシリーズ第3作目『新・猿の惑星』(Escape from the Planet of the Apes, 1971.)です。この映画では、コバルト爆弾によって滅亡した猿の惑星から逃れ、1970年代の地球にたどり着いたチンパンジーの夫婦、ジーラとコーネリアスが主人公です。コーネリアスが人間たちに猿が進化した過程を教える場面で、「人間に何度も言われてきた言葉"No."を、偉大な猿アルドーが初めて発し、人間の支配への反抗を示したのだ」と言っています。

次の作品『猿の惑星 征服』(Conquest of the Planet of the Apes, 1972)は、1991年の北米が舞台です(今回の『猿の惑星 創世記』はこの作品のリメイクだと言われています。)。そこでは伝染病の発生により死滅した犬や猫の代わりに猿がペットとして飼われています。しかし進化して二足歩行するようになったのち、猿たちは奴隷として使役されてしまいます。彼らはまだ言語能力がなく限られた知性しかないという設定なので、主人たる人間たちは彼らが何か間違ったことをすると、"No."と正します。人間が猿の行為を"No."と否定する場面が何度も出てきます。また、映画の後半で人間の支配に対して立ち上がったシーザーたちが、武装して人間たちに立ち向かうシーンで、人間の軍隊が彼らに向かって"No. Home"(「止めろ、家に帰れ」)と繰り返し拡声器で叫びます。

シリーズ第5作である、『最後の猿の惑星』(Battle for the Planet of the Apes, 1973)では、人間との共存を図ろうとするシーザーが、猿と人間の原始的共同体を作って森の中で暮らしています。序盤、猿たちに文字を教えている先生はエイブという人間なのですが、凶暴なゴリラの将軍アルドーの授業妨害が激しくなりすぎたため、思わず"No!"と言ってしまいます。すると「猿が人間の奴隷だった時代の脅し文句を使った」ということで、エイブはアルドーに殺されそうになります。猿が奴隷状態から解放されて以来、"No."は人間にとって禁句とされていたのです。

このように、"No."という言葉はシリーズ第3作目から特別な意味合いを持っていたのですが、今回の『猿の惑星 創世記』でも、同じように重要な使われ方をしていました。シーザーが最初に発する言葉が"No."なのです。過去作品では猿が初めて言葉を発する決定的場面が描かれていなかった*1のですが、今回はその歴史的瞬間が見れました。そして、最初に発した単語が隷属状態の拒否を意味する"No!"であったことに、私は胸が熱くなりました。

猿の惑星 創世記』において、どういう状況でその言葉が発せられたか、ぜひ観てほしいです。この作品には科学者、獣医、研究所の所長など、数々の知的な人間が出ているのですが、いちばん知的に見えたのは猿のシーザーであり*2、そしてこの作品のヒーローも彼であったことだけは記しておきたいと思います。

追記:あ、あとシリーズ通して初めてゴリラがいい奴に描かれてました。(←個人的に超重要。)

最後の猿の惑星 [DVD]

最後の猿の惑星 [DVD]

*1:小覇王さんの記事「「猿の惑星 創世記」の黙示録」で知ったのですが、『猿の惑星 征服』劇場公開版では、シーザーが人間に有罪判決を下す演説の際、リサが"No!"と叫ぶシーンがあるそうです。私がブルーレイで観たのはこのシーンがない試写版だったらしく、シーザーは人間たちがゴリラたちに殺されるのを黙認していました。思えば、『続・猿の惑星』の終盤には、テイラー大佐の恋人であるノヴァが初めて「テイラー!」と叫ぶ場面があります。『新・猿の惑星』もジーラとコーネリアスの息子マイロー(のちのシーザー)が「ママ!」と言葉を発する場面で終わります。動物の言語能力の始まりを描くということが、この作品の大きなテーマの一つであったことは間違いありません。

*2:それがもっとも顕著に表れるシーンは、アルツハイマー症となっていろんな動作を忘れつつあるウィルの祖父(ジョン・リスゴーの演技も凄い)のスプーンの掴み方を直すシーンです。「おじいさんのような年長の方の間違いを僕みたいな若輩者が指摘するなんて申し訳ないけど…」と、控えめな目の表情であますところなく表現しています。アンディ・サーキス(シーザーの中の人)最高!