砂漠でサバイバル―『ゾンビ大陸 アフリカン』感想

(Dirs. Howard J. Ford, Jonathan Ford, The Dead. 2010. United Kingdom.)

シアターN渋谷で、『ゾンビ大陸 アフリカン』を観てきました。

とてもよくできたゾンビ映画でした。以下、内容に触れています。

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ゾンビが徘徊する土地となってしまったアフリカを脱出する飛行機が墜落し、米空軍航空機関士のブライアン・マーフィ中尉はただ一人生き残る。現地の軍人ダニエル・デンベレ軍曹に間一髪のところを救ってもらったのち、マーフィは妻と娘に、ダニエルは息子に会うことを目指し、協力して生き抜くことを約束する。生存をかけ、ゾンビであふれかえるアフリカ大陸を彷徨する二人の軍人の物語。

台詞が少な目で、マーフィが一人で行動する前半はほとんど視覚情報のみで状況を伝えます。ゾンビの動きは緩慢で必死で逃げればかわせないほどのスピードではないですが、大勢がゆっくりと迫ってきます。*1しかし急所が頭であることはすでに分かっているため、近づいてきたら淡々と頭を撃ち抜き応戦します。したがって問題となるのは、「米軍撤退後のアフリカで、弾薬、食料、ガソリン等のサバイバルに必要な資源がないなか、どうやって生き抜くか」ということになります。

ロケ地となったのは、ブルキナ=ファソ(アフリカ西部の共和国)、西アフリカ、ガーナ、サハラ砂漠です。*2 このショッピング・モールもない赤茶けた土地で、不足する資源を獲得しつつ、ゾンビと戦わなければなりません。*3そこがまず面白かったです。「水を取るか、車を取るか」というようなギリギリのやり取りを通じ、物資の欠乏をいかにしてしのぐかというサバイバル映画の醍醐味がありました。

現実の要素を持ち込むためか、米軍やアフリカの内線について、少し言及があります。「戦争を起こし、物資を送りこむ米軍はなんなんだ?」とダニエルがマーフィに聞く場面や、ゾンビが繁殖したことにより、逆説的にアフリカの部族間抗争がなくなったという説明がありました。*4 ゾンビ発生についても、「人類への罰」、「自然がバランスを取り戻そうとしている」など、哲学的あるいは自然のサイクル的な解釈がなされます。

しかし内容としては、「暗黒大陸アフリカ」のイメージをフルに利用したエクスプロイテーション・フィルムだと思います。*5 呪術医(witch doctor)が出てきてまがまがしい祈祷を唱えたり、「悪魔の牙」という奇岩地帯が出てきて、「奇抜なものを見たい」という観客の好奇心を満たす内容となっています。*6 

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見た目についてですが、人体破壊描写は非常にリアリスティックでした。この映画のゾンビは目が特徴的で、黒目が極端に小さくなり、白目の部分が拡大していました。そして、赤い砂漠に映える青黒いゾンビの肌は、ブロンズの彫刻のようで非常に美しかったです。

また、ゾンビが木の枝につまずいて下を見るといった反射行動、まばたきといった生理現象など、ほかのゾンビ映画ではあまり見られない現象があったことも追記しておきます。

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暗黒大陸表象とゾンビ表象を臆面もなくエクスプロイトした映画ですが、それがイギリス人監督の手でなされたものであり、アフリカ出身の監督ではないことが少し残念ではありました。

*1:個人的にゾンビの動きは緩慢でも速くてもいいとは思いますが、本作品に関しては「漸進的に迫ってくる絶望。しかしそれに屈しない希望」みたいなメッセージがラストにあるので、この映画のゾンビはゆっくり動かすのが効果的だったと思います。

*2:http://thedeaduk.webeden.co.uk/#/synopsis/4554841749 海岸、砂漠、舗装されていない道など、人間に飼いならされていない自然の風景だけでも一見の価値はあると思います。

*3:都市ではなく大自然の中でゾンビと戦うという点では、『サンゲリア』(ルチオ・フルチ監督, 1980年)が思い出されました。

*4:"The war between us is no more. There is a new war"という台詞がありました。

*5:公式のシノプシスでも、"the Dark Continent"という言葉がはっきりと使われています。→http://thedeaduk.webeden.co.uk/#/synopsis/4554841749 同じように、エイリアン侵略物の形を借りて南米の自然をエクスプロイトしたのが昨年日本公開された『モンスターズ』だと思います。

*6:この映画の冒頭で示される西アフリカの海岸の美しさは、ヘルツォーク監督の『コブラ・ヴェルデ』(1987年。同じくアフリカ西部が舞台。)の最後のシーンを思い出させます。