推しメンはキム−『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』感想

シネマライズで『スコット・ピルグリム vs. 邪悪な元カレ軍団』を観てきました。
(Dir. Edgar Wright, Scott Pilgrim vs. the World, 2010.)


漫画的表現がエドガー・ライトの匠の技によりテンポのいい映像表現に移し変えられ、オールド・スクールなレトロゲームのピコピコ感に溢れた、とってもキュートな映画でした!


以下、ネタバレ感想。



取りあえず気に入ったポイントを羅列してみます。


・スコットを演じるマイケル・セラが超キュート。原作漫画ではちょっと顔のカワイイ、イマドキの若者といった、どこにでもいる感じです。しかし天然パーマでひょろひょろのマイケル・セラが演じると、非常にコミカル。内股で走る、猫背でベースを弾く、「高校生の彼女がいるんだ。内緒にしてね」と隠し切れないドヤ顔で自慢するなど、小物感が増幅され、なんとも言えないおかしさを醸し出しています。


・「クールなゲイのルームメイト」ウォレスを演じるキーラン・カルキンがめちゃくちゃいい!! スコットがラモーナの元カレに立ち向かっていくのを、適確な助言でサポートします。しかもメガネ好きでめちゃくちゃ共感しました。スコットの高校生彼女ナイブスが同級生について言及したら、「その彼、メガネかけてる?」と聞くし、スコットの妹がクラブに連れてきた男の子を横取りするのですが、その彼ももれなくメガネをかけています。遥か海の向こうの米国においても、メガネ男子萌えの存在が照明されたようで嬉しかったです!


アメリカの『フレンズ』のようなシットコムの手法(笑いどころで観客の笑い声が入る)が取り入れられていました。髪の毛の色を一週間半ごとに変えるラモーナ。親指を噛みながら「気まぐれな娘なんじゃないかしら?(あたし、経験豊富なイケナイ人に遊ばれるんじゃないかしら?)」と「乙女のように」気に病むスコット。シットコムのように、観客の笑い声が入る。男性のように堂々と部屋に入ってくるラモーナ。男性と女性のステレオタイプの逆転で遊んでみせる知性を見せます。


・最初の彼、マシュー・パテルとの戦闘シーンで、なぜか突然マサラ・ムービーに!! 一粒で何度おいしいんだ、この映画…。



以下、恋愛ピラミッドにおけるスコットの位置づけについてちょっと考察。


スコットをオタクの童貞野郎とキャラ付けし、日本のボンクラどもの共感を取り付けようとする向きがありますが、スコットはまじ・まぶしいくらいのリア充です。


ガレージ・バンドでベースを弾き、顔はBECKにそっくりなのです。モテないはずがありません。"Clash at Demonhead"という超クールなバンドの女性ボーカル、ナタリーが元彼女です。しかもその彼女に、"Do you still break girls' heart?"(「まだ女の子を傷つけてるの?」) と、過去のハートブレーカーぶり(モテぶり)を暴露されています。


だからスコットを「非モテの星!」という共感目線で見るのは違うと思いますよ。バリバリのリア獣です。 むしろ、ラブコメの女王高橋留美子の名作『らんま1/2』で、主人公らんまが、けっこうイケメンで、常に個性派美少女たちに追いかけられていたくらいの容姿に設定されていたのを思い出しました。


そんなモテ野郎スコットだから、女の子をとっかえひっかえで、自分が振った際にはすぐ忘れます。


高校生の彼女ナイブスの場合:「別れたよ。でも君たち(バンド仲間)にすぐ新しい彼女を紹介できると思うよ」


高校生の頃の元彼女キム(同じバンドでドラムを弾く):「高校のときにデートしただけさ。そばかすがあったな」


自分がフラれた際にはとても傷つくくせに、女の子たちを傷つけることには無頓着。その残酷さ・人間的未熟さにラモーナは気付いて、諌めるくらいです。別に、恋愛経験値のまったくないオタク男子が、年上の美女にメロメロになって悩むという話ではないのです。


さて、ここからが本題です。この映画の魅力はほかの映画ブロガーの方々が余すところなく紹介してくれると思いますので、好きなこと書きますけど、


リア充や二次元の住人がほんとうに感情移入すべきなのは、というか自己像の投影として見るべきなのは、スコットでもナイブスでもなく、キムだけなんですよ!


あの「嫌な女」とされるジュリーにさえスティーブン・スティルス(バンドのボーカル)が、そしてナイブスにさえヤング・ニールという(スコットを見返すためとはいえ)相手がいるのに、キムだけは原作、映画を通してずーっっっっっと非リア充なんですよ!


キムにとっては、高校生のときに少しデートしただけのスコットがずっと、「あいつはあいつはかわいい、同級生の男の子」であり、「憎みきれないロクデナシ」なんですよ。


あなた方の大蔵省が許すならば、すぐにでもキムのCD、ブロマイド、ポスター等を買い占め、センター争いにおいて首位を獲得さすべきだ(すいません、AKBのシステムのことよく分からないで書いてます…)。*1


というわけで、映画や文学といった二次元の世界にどっぷり漬かり、非リア充的気分で日常を過ごす私の推しメンは、圧倒的にそばかすのキンバリーです。


Kim is the only champion of US!! *2





スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド

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スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス

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スコット・ピルグリムVSジ・ユニバース

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Scott Pilgrim Vs. the World

Scott Pilgrim Vs. the World

*1:しかも原作2巻あたりで、「今夜はデートなの」と仲間には言っておいて、実は翌日のライブで着るゴスの衣装縫ってたなんてエピソードもあるんですよ。なんというわたしホイホイ。

*2:Meaning, Kim is the only person with whom we can sympathize. "We" in this context means "people who do not have fulfilling personal life in real world". Scott DOES have fun in real life, right? Kim is totally cool, but when she said to the others that she was going out with a date in the evening, she actually sewed Goth costume for a live show the next day. I LOVE THIS GIRL.