2011年に読んだ本

2011年の読書メーター
読んだ本の数:54冊
読んだページ数:14082ページ
ナイス:91ナイス
感想・レビュー:52件
月間平均冊数:4.5冊
月間平均ページ:1174ページ

ゼロ年代アメリカ映画100
ゼロ年代アメリカ映画100
1999年から2009年に製作された代表的アメリカ映画の総括。合間に当代の日本人映画評論家たちのアメリカ映画論考もあり。黒沢清監督の「00年代アメリカ映画の技術的側面」がとても面白かった。映画を撮る側からの技術面での変化の解説。撮影方法もまた、映画のストーリーテリングに深くかかわっているのだと思った。添野知生氏の「日本の映画館から消えた映画たち」も非常に考えさせられる内容だった。巻末で私のもっとも好きなジム・キャリー映画『マン・オン・ザ・ムーン』(1999年)が紹介されていたのもうれしい。
読了日:01月09日 著者:
グラン=ギニョル傑作選―ベル・エポックの恐怖演劇グラン=ギニョル傑作選―ベル・エポックの恐怖演劇
モンマルトルのグラン・ギニョル座で演じられた残酷演劇集。編訳者の真野倫平さんの解説通り、幽霊などの恐怖というよりは、医学的恐怖の方が強調されている。硫酸、ギロチン、人体改造手術により、肉体が残酷に変容させられる過程を描いている。結末にいたるまでのサスペンスが凄い。『責苦の園』のヒロイン・クララを演じた女優ポーラ・マクサのクララ評「感覚を鎮めるために他人の苦痛をむさぼらずにはいられない」は、グラン・ギニョルの観客全員に当てはまるのではないか。血の色も鮮やかなリーフレットや、舞台のスケッチや写真も充実。
読了日:01月14日 著者:
塚本晋也読本 SUPER REMIX VERSION塚本晋也読本 SUPER REMIX VERSION
塚本晋也監督の創作方法について、前半では出演者や批評家の観点から明らかにし、中盤では監督自身のインタビューを元に作品を振り返る。俳優塚本晋也について、ほかの監督や俳優仲間の観点から語られた後半も面白かった。欲を言えば、インタビューに持参してきたという手帳(「過去の設計図と未来の設計図」p. 320)の写真が見たかった。「女性を撮るのがうまい」と言われる監督だが、『六月の蛇』についてのインタビューを読むとその理由がよく分かった。「造形」という観点から論じた山根貞男氏の『六月の蛇』論も圧巻。
読了日:01月14日 著者:
フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
フェイスブック創始者マーク・ザッカーバーグの伝記。ハーバード大学寮の一室で始めてから、2010年までを描く。ザッカーバーグがショーン・パーカー、ジム・ブライヤー、ケビン・エフルシー、シェリル・サンドバーグなど、その時々に最も適切な助言者を得てCEOとして成長していったことが分かる。当初から金のためではなく、「より透明な世界」(p.420)、「世界を本当に大きく変える何かを実際につくること」(p.481)「個人に力を与えること」(p.421)といった明確なビジョンを抱いて作り出したことが強調されている。
読了日:01月21日 著者:デビッド・カークパトリック
透明人間の納屋 (講談社ノベルス)透明人間の納屋 (講談社ノベルス)
母子家庭の少年「ヨウちゃん」と真鍋平吉さんの交流を描く。この作者は「年少者が年長の男性に憧れる」様を描くのが、非常にうまい(例:『異邦の騎士』)。しかしミステリとしての魅力は薄い。いつもケレン味溢れるトリックを繰り出してくるのに、この作品に限っては幻覚や錯覚による説明があったのはがっかりした。それを補うミステリの範疇を超えた叙情性があるので、好きな作品だ。真鍋さんの「ヨウちゃん」への想い、20数年を経て「ヨウちゃん」が初めて気づく自分の過ちに、切なくなった。
読了日:02月12日 著者:島田 荘司
時計じかけのハリウッド映画―脚本に隠された黄金法則を探る (角川SSC新書)時計じかけのハリウッド映画―脚本に隠された黄金法則を探る (角川SSC新書)
カリフォルニア州立大学の映画学部で脚本術を学んだ二人の日本人が著者。3部構成のハリウッド映画の基本構造、テーマとキャラクター設定、フォーマット化された脚本学など。参考文献表がなく出典も曖昧な箇所があり、大学の授業の聞き書きという体裁。『リング』がどのようにハリウッド・フォーマットに翻訳されて"The Ring"となったのか解説した部分は面白かった。ハリウッド脚本執筆用の専用PCソフト"Final Draft"が存在するというのには驚いた。ハリウッドは映画を徹底的にフォーマット化していることが分かった。
読了日:02月14日 著者:芦刈 いづみ,飯富 崇生
リベルタスの寓話リベルタスの寓話
「リベルタスの寓話」と「クロアチア人の手」の二部構成。"Allegory of Ribeltas"という英題が付いているが、この綴りだと「リベルタス」が"Liberty"(自由)を表すことにはならないのではないか。しかし犯行トリックは前者の方がまだ実現性があった。後者はトンデモトリックと、石岡くんの萌え要素が楽しめる。「ふうん」「可愛くないなー」「できないから電話しているんだよー」とのほほん口調で話し、御手洗に「別に意地悪をしているんじゃない」とピシャリと言われ、「友に邪険にされている」と感じる石岡くん。
読了日:02月17日 著者:島田 荘司
悪魔を憐れむ歌悪魔を憐れむ歌
『愛犬家連続殺人事件』(志麻永幸著)を元にした小説。「本業が潤っているうちはいいが、食うのに困った時のために、どうやって人間を透明にするのか、俺たちのやり方を見ておけ。世の中にはこういう金の稼ぎ方もあるんだ」(p.144)等、狂ったビジネス論が展開される。「脂が乗ってきて切れなくなった。済まんが、外で軽く研いできてくれ」(p.140)という台詞からも分かるとおり、自分が殺した人間の解体を「仕事」として捉えており、それがいちばん空恐ろしかった。映画『冷たい熱帯魚』は、共犯者の設定が大分変更されている。
読了日:03月10日 著者:蓮見 圭一
図書館警察 (Four past midnight (2))図書館警察 (Four past midnight (2))
"FOUR PAST MIDNIGHT"という連作の後半二作(前半は『ランゴリアーズ』と『秘密の窓、秘密の庭』)。『図書館警察』は講演の代役を引き受けたばかりに、恐怖の司書と対決するはめになる営業マンの話。『サン・ドッグ』は、15歳の少年が、誕生日に買ってもらったポラロイド・カメラから、クージョのような犬が『リング』の貞子なみに出てこようとするのと対決する話。どちらも登場人物のみならず、図書館やカメラのディティールが細かく描かれており、スティーブン・キングの物自体へのフェティッシュなこだわりを感じさせる。
読了日:03月17日 著者:スティーヴン キング
日の名残り日の名残り
なぜミス・ケントンはこんな朴念仁を好きになったのだろう。こんな人の心が分からない、繊細そうに見えて鈍感な人間を。そんなことを考えながら読んだ。最高の「執事」になることを最優先事項とし、自分の感情や主君の政治上の過失に気付こうとしないミスター・スティーヴンス。そんなことだから戦争後にかつての主君を知らないと言う羽目になるのだ。しかし記憶の中では「ミス・ケントン」と呼んでいたのに、再会後に話しかけるときは「ミセス・ベン」と呼んでいたとき、執事自身も気付いていない感情が、読者の前に晒される。繊細かつ精巧な作品。
読了日:03月19日 著者:Kazuo Ishiguro,土屋 政雄
バットマン:アーカム・アサイラム 完全版 (ShoPro Books)バットマン:アーカム・アサイラム 完全版 (ShoPro Books)
ジョーカーによりアマデウスアーカムの精神病院に誘い込まれたバットマンが、自分のトラウマと対峙する。デイブ・マッキーンの作画が圧巻。コミックというよりも、コマの一枚一枚が現代アートの絵画のようである。巻末のグラント・モリソンによる脚本と注釈も面白い。バットマンを「不安定で、性的機能の停止した男」(注釈p.5)、ジョーカーを「常識を超えるほどに正常な人間」(注釈p.19)として設定。キリスト、サタン、『不思議の国のアリス』、ユングアレイスター・クロウリーなど、文化的引喩に満ちているので注釈は必読。
読了日:03月20日 著者:グラント・モリソン
跳躍者の時空 (奇想コレクション)跳躍者の時空 (奇想コレクション)
SF作家フリッツ・ライバーの短編集。「コーヒーを飲めば人間になれる」と考えている天才猫ガミッチを主人公とした短編が5つ。猫という動物の抱く美意識を徹底的に論理化・言語化するとどうなるか試みた実験作のように思えた。私が最も好きな短編は「『ハムレット』の四人の亡霊』」だが、シェイクスピアを登場人物とした小説コンテストで入賞もしなかったらしい。「骨のダイスを転がそう」はミステリアスな大物ギャンブラーに大酒飲みの市井の男ジョーが立ち向かうという話だが、ギャンブラーの心理・真理がよく現れていると思った。
読了日:03月22日 著者:フリッツ・ライバー
銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)銀河ヒッチハイク・ガイド (河出文庫)
バイパス作りのために自宅取り壊しという不条理に遭っていた主人公が、超空間高速道路の建造のための地球破壊というスケールの違う不条理に遭遇し、ガウン一枚で広大な宇宙に放り出されてしまう。人間のやることにも、神のやることにも理由などなく、偶然に支配されている。従ってその意図を演繹しようとする行為は馬鹿げている。そもそも「宇宙の真理とは何か」などという問いの正体さえも、被造物たる我々は分かっていないではないか。そんな不確実さの中で出てくる答えが「42」なのは致し方がない。「偶然の確率」についての興味深い考察。
読了日:03月25日 著者:ダグラス・アダムス
長距離走者の孤独 (新潮文庫)長距離走者の孤独 (新潮文庫)
自分たちの考える栄光を押しつけようとする感化院の所長に対し、自分だけができるやり方でノーを突きつけるスミス青年。中盤のレース場面では改行が少なくリズミカルで、文体自体で疾走感を表している。好きな短編は『漁船の絵』。家を出た妻と週に一度会う男の話だが、最後の一文で文体が変わるところは何度読んでも好きだ(丸谷才一訳)。アラン・シリトーはD. H. ロレンスと同じくノッティンガム出身で労働者階級の父に持つ作家だが、貴族の妻を持ち貴族女性の性の話を書いたロレンスと違い、一貫して労働者を主役に物語を書き続けた。
読了日:03月31日 著者:アラン シリトー
共犯者 (新潮クライムファイル)共犯者 (新潮クライムファイル)
「共犯者」となった男性が、繰り返し「主犯にマインドコントロールされていた」と言っているのだが、スタンガンの下りを読むと、「共犯者」自身他人の痛みに極めて鈍感な人間に思える。もちろん恐怖の余り判断力が低下していたとも考えられるのだが…。終盤の検事への態度は、主犯の男性に何年もいいように操られていたことへの鬱憤を他人で晴らしていたように見えて不快だった。主犯を憎んでいるといいながら、物証がないため主犯の罪が証明されるのは自分の証言次第だと知るや、横暴な態度を取るのは解せない。担当刑事の最後の説教が救いだ。
読了日:04月04日 著者:山崎 永幸
まほろ駅前多田便利軒まほろ駅前多田便利軒
町田市をモデルとしたまほろ市で便利屋を営むバツイチの男性と、その便利屋に居候する友人(同じくバツイチ)の男性の話。シンプルな文体で読みやすかった。主人公多田が、小説という読者の興味の持続を旨とする虚構の主人公とは思えないほど繊細に他人を思いやるので、読者は彼らが出会う人々に実際にはなにが起こったのか推測するしかない。しかしその地方都市在住者らしい距離感に、リアリティを感じる。もう一人の主人公行天春彦の来歴は完全には明らかになっていないので、続編もあるのだろう。最近の小説では珍しいくらい煙草をプカプカ吸う。
読了日:04月06日 著者:三浦 しをん
ワイルド7 1 野生の7人編 (ぶんか社コミック文庫)ワイルド7 1 野生の7人編 (ぶんか社コミック文庫)
手塚治虫と劇画の間くらいの絵柄で、躍動感がある。バイクと銃器のディティールが凄い。七人が一列になって「バウウウウウ」とバイクの唸りをあげるカットは最高に胸熱!暴力描写がハリウッド映画やヤクザ映画にも負けていないが、この迫力を今度の映画化でも出せるのだろうか。小奇麗にまとめられたのでは、ガッカリ感が半端ないだろう。
読了日:04月07日 著者:望月 三起也
ワイルド7 4 コンクリート・ゲリラ編 (ぶんか社コミック文庫)ワイルド7 4 コンクリート・ゲリラ編 (ぶんか社コミック文庫)
ユキちゃんがエロかっこいい。コンクリート・ゲリラの拷問の仕方はほんとうにエグい。世界は真の漢。後半のミサイル争奪戦は頭脳戦とアクションの混ざり具合が絶妙。
読了日:04月07日 著者:望月 三起也
ニートピア2010ニートピア2010
「怪力の文芸編集者」、「放っておけば、やがて未来」という題名や、『引き籠もり悲喜こもごも』というフレーズなど、日本語の可能性を感じさせる。内容は暴力的で反復が多いのに、端整な文体なので読み疲れない。ところどころ作者が登場し、「金を稼ぐために原稿用紙のます目を埋めているだけ」と言うのだが、正直で倫理的な態度だと思った。二番目と最後の短編に出てくる怪力の文芸編集者安藤が印象に残った。「誰も映っていない」における、猫についてのちょっとイイ話が、グロテスクな奇譚に変化する様が素晴らしい。何度でも読みたい日本語。
読了日:04月07日 著者:中原 昌也
死んでも何も残さない―中原昌也自伝死んでも何も残さない―中原昌也自伝
「書きたくて書いているんじゃないことしか書きたくない」「やるからには、人の認識を変えるようなことをやらなければならない」「みんな自分の趣味のひけらかしばかりやっていて、本当にうんざりする」など、名言連発。著者を嫉妬混じりに批判したために延々とこの自伝のなかで標的になった文芸評論家は誰だろう。自分探しと目玉の比喩を見て、「目玉」というのはあらゆる視覚的事象の取り込み口でありながら自分の目では見れない部分なので、氏の行なっていることは間違っても自分探しなどではないのだということは分かった。とても潔癖な印象。
読了日:04月12日 著者:中原 昌也
時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)時計じかけのオレンジ 完全版 (ハヤカワepi文庫 ハ 1-1)
選択の自由と教育についての物語。暴力的な選択しかできずに周囲に害を与えずにはいられない存在でも、選択の自由があった方がいいのか、それとも、暴力的に選択の自由を抑えつけても、周囲に害を与えない存在に矯正した方がいいのか。重要なのは、刑務所の中でさえ囚人が別の囚人に「教育」を施そうとしている点。「この男をなぐったことは誰も否定できないよね、この男に教育を施してやるってわけだったんだからね」(p.142)。主人公が「時計じかけのオレンジ」についてある考えに達する最終章、あった方がいいのか否かはよく分からない。
読了日:04月15日 著者:アントニイ・バージェス
スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネススコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス
スコット、リア充なのはもちろん、道行くギャルに「あの人イケてない?」と言われるくらいだからイケメン設定なのだろう。『らんま1/2』の主人公くらいの容姿レベルの男子の恋物語と想定して読んだ方がいい。「スコットしかいないの!」と盲目的なナイブス・チャウには若干イライラした。スコットはニートニートでも親に依存しているわけではなく、友人のカードを借りてデートする筋金入りのハイパー・ニート。ポケットを探ってもホコリやおもちゃくらいしか出てこない。と言っても出てくる人間皆バイト生活のような感じで自由を謳歌してる。
読了日:04月21日 著者:ブライアン・リー・オマリー
人生解毒波止場 (幻冬舎文庫)人生解毒波止場 (幻冬舎文庫)
表紙に"DA ANTIDOTE 2 DA SCUMMY LIFE"(「浮きかすだらけの人生への解毒剤」)と(なぜか黒人英語で)あるように、読み終わると不思議と清々しい気分になる。根本先生が紹介する「いい顔」のおやじたちは、チャーミングだが絶対に自分の人生では関わりたくないタイプの人々だ。安全圏に留まらずに敢えてそういう人々にコミットする根本先生は尊敬に値する。「(蛭子能収宇宙における)蛭子率という磁力」など、案外アインシュタイン相対性理論以降の宇宙観を意識していると思われる点にも教養の高さがうかがわれる。
読了日:04月22日 著者:根本 敬
スコット・ピルグリムVSジ・ユニバーススコット・ピルグリムVSジ・ユニバース
最終巻。相変わらず女の子たちの衣装は可愛い。しかしすんごい好きで同棲までしてる彼女に「私は図書館に本返してジム行って9時から3時まで働いてくるから」(コマ切り替わって)「お皿だけ洗っといて」と言われるスコットのダメダメ感ときたら…。さいごはスコットがちょっとはマシな人間になっていて安心した。ドラマーのキムとティーンエイジャーのナイブスには幸せになってほしい。
読了日:05月03日 著者:ブライアン・リー・オマリー
夢想の研究―活字と映像の想像力 (創元ライブラリ)夢想の研究―活字と映像の想像力 (創元ライブラリ)
一読して博覧強記という印象を受ける。文学や映画といった個々の文化的事象を前に想像力を働かせ、影響関係を提示してみせる。気に入ったフレーズ:「それ(コンプレックス)が全く存在しないところで生み出される作品や批評というのは一体いかなるものであろうか。それは恐ろしいほど単純で幼稚で明るい、それこそバカみたいな"芸術"ではあるまいか」(p.171)。『僧正殺人事件』犯人のモデルとなった人物、スター・ウォーズへの道教や日本の伝統文化の影響など。mist(霧)=misteryといった言葉遊びが好きな所は信用できる。
読了日:05月09日 著者:瀬戸川 猛資
Look Back in Anger (Plays, Penguin)Look Back in Anger (Plays, Penguin)
"Look back"という言い回しが出てくるのは、アリソンの父が古き良きエドワード朝時代を懐古するとき、ジミーとアリソンの結婚が決まった当時を父が思い出すとき、アリソンが父の元に戻ることを決めるときのこと。「実はジミーは父以上に時代遅れでヴィクトリア朝時代に生まれるべき人間」だとは女性二人の言(90)。ジミーが時代に取り残された英雄であることは、彼が究極的に求めているのが「孤独の中で強い魂が同じように強い魂と出会うこと」(94)という点からも明白。18、19世紀のロマンティシズム詩人のよう。
読了日:05月26日 著者:John Osborne
ジョニーは戦場へ行った (角川文庫)ジョニーは戦場へ行った (角川文庫)
第一次世界大戦により、四肢と知覚を失った主人公が、意識の流れだけで過去の人生や戦場で起こったことを振り返る。p.133-135辺りの「名誉」や「栄光」といった言葉に対する憎しみは、ヘミングウェイの『武器よさらば』の影響を受けているのかと思ったら、訳者の信太英男さんがヘミングウェイやフォークナーといったロスト・ジェネレーションの作家に影響を受けていると書いていた(あとがき, 275)。圧巻は最後のモールス信号による医者との対話場面。自ら見世物となることを望むが、外界との接触が許されず隠蔽されるのが恐ろしい。
読了日:06月02日 著者:ドルトン・トランボ
月刊コミックアーススター 2011年 06月号 [雑誌]月刊コミックアーススター 2011年 06月号 [雑誌]
友人から誕生日プレゼントに貰い読んだ。対象読者層は男性だと思われるが、主人公に女性が多いのが意外。声優、女子プロ、料理、チャリオタ、お嬢様と執事、化け物等、「女の子がこんなことしてたら(なってたら)いいな」という題材がすべて網羅されている。『トロン』の漫画版が掲載されていた。
読了日:06月05日 著者:
The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another dayThe Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day
漫画には登場しない"The Book"というスタンドを持つ蓮見琢馬を物語をメインに据えたことにより成功していると思う。ビルの隙間で生きる女性の物語はそれ自体の強度を獲得している。スタンド名が「書物」という名前であることをすべての軸としているかのように、図書館が重要な舞台となり、漫画のノベライズについての言及や、「本に印刷されてはならない言葉を言うな」という台詞まであるのがメタ的で面白い(この"The Book"が読者に読まれることに意識的である点で)。父親と同じ行為で復讐する主人公にはぞっとした。
読了日:06月19日 著者:乙一
荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)
「『13日の金曜日は恐怖と癒しを同時に与える」、「死者を敬うな、ゾンビを殺せ」など、ホラー映画の本質に関して鋭い指摘がいくつもあった。以前から『ジョジョの奇妙な冒険』はイタリアのホラー映画のようだと思っていたが、この本でルチオ・フルチの『サンゲリア』やダリオ・アルジェントの『サスペリア』の名前を挙げ、イタリア文化の魅力を語っていたので合点が行った。「田舎に行ったら襲われた」「ビザール殺人鬼映画」など、言葉のチョイスがユーモラス。なんどでも読み返したい面白さ。
読了日:06月24日 著者:荒木 飛呂彦
東大生の論理― 「理性」をめぐる教室東大生の論理― 「理性」をめぐる教室
東大に非常勤講師として出講した著者が、記号論理学の授業風景から、現在の東大生像に迫った本。東大独特の「進振り」といった制度や、「成績評価の内訳に対する大学からの要請」についても触れている。授業で講じられた論理学の基礎を踏まえつつ、それに対する東大生のリアクションを紹介するという体裁なので、論理学の入門書としても使える。好きな女の子が新興宗教に入信寸前の学生からの恋愛相談など、論理学なのに使われている例が面白く、とっつきやすい。
読了日:06月30日 著者:高橋 昌一郎
ティファニーで朝食を (新潮文庫)ティファニーで朝食を (新潮文庫)
村上春樹訳で、語り手はやはり「やれやれ」と言ってる。ホリー・ゴライトリーは「〜だわ」「かしら」を多用する代わりに(もちろん使いはするのだけれども)、「〜たよ」「〜たな」と言っており、かなり彼女のイメージに沿っている。「ダイアモンドのギター」、「クリスマスの思い出」では、年長者と年少者の交流が描かれる。後者で60歳の老女が7歳の従弟に言う台詞「私が泣くのは大人になりすぎたからだよ(...)年取って変てこだからだよ」には、泣きそうになった。カポーティの短編は、孤独な者同士の交流、裏切り、別れを描いて美しい。
読了日:07月08日 著者:トルーマン カポーティ
通訳ガイド試験への招待通訳ガイド試験への招待
通訳案内士試験のガイド本。問題集ではない。通訳ガイドの仕事内容、試験内容、合格後の新人研修、短期合格のためのスケジュールの立て方、使える参考書、英語筆記試験対策、日本語筆記試験対策、口述試験対策、英語口述試験再現集、地方からの受験対策、合格者たちの受験体験談など。地理、歴史の資料名が多く挙がっている。モチベーション維持の方法やノートの作り方、勉強会など、合格者の体験談が非常に具体的。外国人に自国の文化を紹介するには、機械的な参考書の暗記ではなく、自分の血肉としての知識を身につけることが重要である。
読了日:07月21日 著者:JFG
Invisible MonstersInvisible Monsters
運転中にライフルで顔を撃たれ、顔が醜く変形し、唇もなくなり、口もきけなくなった元美人モデルが主人公。果たして彼女を撃ったのは誰か?"Jump to~"という言い回しを合図に場面が転換し、時系列もばらばら。ゲイでAIDSで死んだと思われている兄の記憶から逃れられないために、男性同士の性交の隠語について感謝祭の食卓で延々と話し、娘へのクリスマス・プレゼントに大量のコンドームを贈る父と母が強烈。兄を忘れられない彼らに、ヒロインは「見えない」ままである。アイデンティティと自己形成についての物語。時制は全て現在形。
読了日:07月29日 著者:Chuck Palahniuk
Kick-AssKick-Ass
父娘が武器を調達するのが"eBay"。ヒット・ガールが「十人力を与えるとダディに言われた」と、"Condition Red"という化学化合物を吸引する場面があるのだが、明らかに麻薬。やはり原作のキック・アスはジョン・ヘダーに似ている。覚えた単語:"Contact-high"(マリファナを吸っていたレッド・ミストと話した後にキック・アスが感じる間接陶酔)"Superhero Code"、"nerdgasm"(ヒット・ガールとビッグ・ダディにチームに加わるよう言われたとき、キック・アスが感じる)。
読了日:07月31日 著者:Mark Millar
兄帰る (ビッグコミックススペシャル)兄帰る (ビッグコミックススペシャル)
結婚式の直前に突然姿を消した一人の男。三年後に交通事故に遭い、骨だけとなって帰ってくる。彼が失踪した動機は何だったのか。彼の許婚、妹、弟、母親が別々の視点から、失踪の真相に迫る。彼ら自身が過去の痛みに向き合い、過去を赦し、少しずつ前進する過程が描かれる。父親が蒸発したために大学を中退し、映画を撮る夢を諦めた男性が、「自分の人生は自己犠牲ではなかった」と確信するまでの物語でもある。心に迫ったのは、母親が蒸発した夫に再会し、「許さないけど、認める」と言うシーン。許容ではなく超克というトーンが通底する作品。
読了日:08月16日 著者:近藤 ようこ
消費社会の神話と構造 普及版消費社会の神話と構造 普及版
現代の消費社会を記号論で捉えた考察。「"生産"のセクターで十九世紀に起った生産力の合理化の過程が二〇世紀に入って"消費"のセクターでひとつの到達点に達する」(102)、「あなたをあなたの"選んだ"理想に近づけることによって、『本当のあなた自身』になることによって、あなたは集団の命令に最も忠実に従っていることになり、『押しつけられた』モデルに最も接近する」(123)、「消費のもっとも美しい対象−肉体」(186、章見出し)、「セックス交換基準」など、鋭い文章が並ぶ。きちんと理解はしていないので、要再読。
読了日:08月17日 著者:ジャン ボードリヤール
逆境ナイン 1 (少年キャプテンコミックススペシャル)逆境ナイン 1 (少年キャプテンコミックススペシャル)
「日の出商対クラスの暇な人」、「『それはそれ!!』『これはこれ!!』」等名言が並ぶ。キャプテンが校長との話で「風呂敷を広げる」ときにコマが風呂敷の形になる、強豪校が試合放棄しただけなのに死闘の末勝ったかのように喜ぶ等、野球スポ根漫画のパロディが並ぶ。冗談か本気か、紙一重のラインでやっている点に匠の技を感じる。マネージャーが得てきたライバル校のデータが役に立たず、結局は精神論、根性論で勝ってしまう。サカキバラゴウ先生が新屋敷に与えた「中間考査攻略法」は、実にためになる。
読了日:08月22日 著者:島本 和彦
逆境ナイン 2 (少年キャプテンコミックススペシャル)逆境ナイン 2 (少年キャプテンコミックススペシャル)
「ボールに歴史がないのなら投げるオレが七光りを与えるのみッ」など、気合とハッタリで難局を乗り切る野球漫画第2巻。勝負のあとの選手の雰囲気で周囲が勝ち負けを判断し、勝っていても敗北感を味わうなど、価値判断が「実力ではなくハッタリ」ベースなのが面白い。今回サカキバラ先生の「大きいコマを使って大声で言えば名言に聞こえる」シリーズは、「たたけばホコリはでる!」「背に腹はかえられん!」。不屈闘志の一目惚れの相手桑原真美子は、酒井法子がモデル。野球と女の子の二者択一で死ぬほど深刻に悩む展開が熱い。
読了日:08月27日 著者:島本 和彦
シミュラークルとシミュレーション (叢書・ウニベルシタス)シミュラークルとシミュレーション (叢書・ウニベルシタス)
「シミュレーションとは起源も現実性もない実在のモデルで形作られたもの、つまりハイパーリアルだ」(1-2)。現代は、オリジナルなきコピー、誕生した瞬間からコピーであるモノ、つまりシミュラークルの時代である。「ベンヤミンが映画、写真、現代のマスメディアについて描いているが、こんな展開をみせる最も先端的で近代的な形態とは、そこにオリジナルがもはやなく、決して存在さえしなかったということだ」(「クローン物語」130)。『チャイナ・シンドローム』、『クラッシュ』、『地獄の黙示録』等の映画も扱う。マクルーハン頻出。
読了日:08月30日 著者:ジャン ボードリヤール
キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)
「たったひとつだけ"落とし穴(キャッチ)"があり、それがキャッチ=22だった。(…)もし出撃に参加したらそれは気が狂っている証拠だから、出撃に参加する必要はない。ところが、出撃に参加したくないというなら、それは正気である証拠だから出撃に参加しなくてはならない」(77-8)。登場人物の弄ぶ行動原理すべてがこの理屈で説明される。最初は狂気にしか見えないヨッサリアンが、いちばんまともに見えてくる。最も狂っているのは自分の出世のために出撃回数を増やす軍の上層部。映画化するならヨッサリアンはジョン・ベルーシがいい。
読了日:09月02日 著者:ジョーゼフ・ヘラー
Wall and PieceWall and Piece
ステンシルを使い権威者たちに無断で街の壁面に作品を投下するアート・テロリストの作品集。警官や騎兵を不謹慎にデコッた絵が多い。壁に勝手に「合法グラフィティ壁面」の文字を描いてほかのアーティストの活動も促進しているとこがいい。絵の横に「展示継続時間」が記載されており、3分や2時間とあるのを見ると、その時間の短さも含めて作品と思わされる。最も見応えがあるのは、やはりパレスチナ分離壁に描かれた青空や風船少女の絵。(ガイド)「(大爆笑しながら)もちろん監視塔に狙撃兵はいますよ。無線電話を持った狙撃兵がいるんです」
読了日:09月02日 著者:Banksy(バンクシー)
キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)
50回、60回、70回と出撃回数が増やされるにつれ、最前線の航空兵は死んでいき、物語は閉塞感を増す。権力側に都合のいい前提を押し付けられる兵士たち。彼らは命を賭けるが、上層部は出世や金儲けのために彼らを食い物にする。「キャッチ22だよ。キャッチ22は、あいつらにはどんなことだってする権利があり、あたしたちがそれを止めだてしてはならない、と言ってるんだよ」(p.286)「彼らは好きなだけいくらでも公式報告を用意し、情勢しだいでどれでも必要と思うものを選ぶことができるんだ」(p.347)。結末は希望が持てる。
読了日:09月22日 著者:ジョーゼフ・ヘラー
これを英語で言えますか?―学校で教えてくれない身近な英単語 (講談社パワー・イングリッシュ)これを英語で言えますか?―学校で教えてくれない身近な英単語 (講談社パワー・イングリッシュ)
これは面白かった。日本の中高の英語教育で教えてくれない英単語を扱っている。特に第2章「これくらいは知っておきたい、数や図形の英語」は、「足し算と引き算」から始まり、「体積の求め方」まで、数学的記号の英語読みが分かるのでためになる。そのほかに、調理の際に使われる動詞の区別や、会社の英語、社会の英語など。日常生活では頻出するのに日本の学校教育内では意外と教えられていない言い回しが出てくる。単語に関連情報が載っているが、説明に多寡あり。個人的に気に入ったのは、第6章「遊びの英語」内の「相撲用語を英語で言うと」。
読了日:09月30日 著者:
キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)キャッチ=22 上 (ハヤカワ文庫 NV 133)
読了日:10月14日 著者:ジョーゼフ・ヘラー
野獣死すべし (1954年) (Hayakawa pocket mystery books)野獣死すべし (1954年) (Hayakawa pocket mystery books)
最愛の息子マーティンを轢き逃げされたフランク・ケアンズ。覆面探偵作家フィリクス・レインとしての立場を利用し容疑者に近づき核心に迫る前半は、彼の一人称の日記で語られる。中盤、視点が切り替わり轢き逃げの容疑者とケアンズの三人称語りとなる。後半には私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズが登場し、ロンドン警視庁警部のスコットランド人ブラントとともに謎解きをする。英国の桂冠詩人C.D.ルイスがニコラス・ブレイク名義で執筆。フーダニット、ホワイダニットに重点を置いている。ハウダニットはそれほどでもない。叙述ミステリ。
読了日:10月18日 著者:ニコラス・ブレイク
キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)
読了日:10月29日 著者:ジョーゼフ・ヘラー
ライ麦畑でつかまえて―The catcher in the rye  (講談社英語文庫) (Kodansha English library)ライ麦畑でつかまえて―The catcher in the rye (講談社英語文庫) (Kodansha English library)
ニューヨークのアッパーミドルクラス男子が、何度目かの放校処分に遭い、ガールフレンドや友人、娼婦と交流しながら町を彷徨う話。体育会系と文化系の対立、弟アリーの死というトラウマ、ホモフォビア、女性蔑視、映画への嫌悪といった、様々な問題をはらんでいる。ホールデンが大声を出しながら自分では気づかないのはなぜか。公園で幼児にココアを飲まないかと誘い断られる彼と、彼にゲイの嫌疑をかけられるアントリーニ先生はオーバーラップする。"Phony", "lousy", "it killed me"等、語彙が貧しいのも特徴的。
読了日:11月09日 著者:J.D.サリンジャー,J.D. Salinger
新しい世界の文学〈第20〉ライ麦畑でつかまえて (1964年)新しい世界の文学〈第20〉ライ麦畑でつかまえて (1964年)
"It killed me"を自分ではどう訳すかと考えていたが、この翻訳の「これには参ったね」には納得がいった。「〜じゃねえよ」等、同世代同士で話すときの十代後半の乱暴な言葉づかいや粗暴さは、原文からよく訳出されていると思う。久しぶりに読み返して、主人公ホールデンの無意識の女性蔑視など、目につく点がいくつか。大人になってから読むと、主人公の若者特有の身勝手さよりも、周囲の大人たちが彼に振り回されている様のほうがよく分かる。アクリーとホールデンホールデンとストラドレーターの関係性の重複が気になった。
読了日:11月09日 著者:J.D.サリンジャー
Salinger's The Catcher in the Rye (Reader's Guides)Salinger's The Catcher in the Rye (Reader's Guides)
"Catcher in the Rye"の入門書的内容。1. "Context"(時代・文化的背景), 2. "Language, Style and Form"(言葉遣いと文体)3. 各章の要約と著者の解釈、4. 批評的受容史と出版史、5. 翻案、解釈、影響関係の5部から成る。平易で分かりやすく、誠実な解釈だが、ホールデン女性嫌悪ホモフォビアなど、もう少し掘り下げてほしかった気もする。2007年の出版なので、"Catcher~"をモチーフにした比較的新しい映画(『陰謀のセオリー』)も取り上げている。
読了日:11月12日 著者:Sarah Graham
フレンチ油田を掘りあてる (1960年) (創元推理文庫)フレンチ油田を掘りあてる (1960年) (創元推理文庫)
ブリストルの地方大地主一家の三男が、領地内に油田があることに気付く。誰かほかの人間に気付かれないうちに油田開発を進めるため、家族会議を開くが、長男の素人画家モーリスだけが田園風景保護の観点から反対する。数日後、モーリスの轢死体が鉄道踏切で発見される・・・。主に領主の甥の妻ポーリンと、ロンドン警視庁警視ジョゼフ・フレンチの視点から語られる。怪しいと思った出来事や人物同士の点と線が繋がっていく後半は楽しいが、それまでがやや長すぎるように思われた。動機も凡庸。フレンチはキチガイっぽい探偵ではなく、上品で常識家。
読了日:11月22日 著者:F.W.クロフツ
J.D. Salinger's The Catcher in the Rye: A Routledge Study Guide (Routledge Guides to Literature)J.D. Salinger's The Catcher in the Rye: A Routledge Study Guide (Routledge Guides to Literature)
"The Catcher"、およびサリンジャーの入門書。サリンジャーの生涯と作品、第二次世界大戦後のアメリカ社会と文化の文脈説明、Cactherと検閲、作品を四部構成に分けての解説、1950年代から10年ごとの批評史、2007年当時最新の批評論文5本。マルクス主義精神分析理論、フェミニスト的読解、クィアスタディーズなど、初学者向けに一から分かりやすく説明しており親切。ホールデンの嘆きを、女性化した市場への男性的英雄の反発という大きな流れの中で捉えたSally Robinsonの論文が特に面白かった。
読了日:11月23日 著者:Sarah Graham
トルーマン・カポーティ研究 (1970年)トルーマン・カポーティ研究 (1970年)
『遠い声、遠い部屋』で描かれた同性愛を不妊の愛、歪んだナルシスとし、黒人男女のセックスを「男が男を回復し、女は女であることを回復」(77)とする意見に70年代という時代の限界を感じた。『冷血』についての章では「非虚構小説」についての詳細な議論がある。しかし、『ティファニーで朝食を』ではやや唐突に「意外にも深刻な政治問題をはらんでいる」(128)とし、その根拠がホリーの言う「アカの気分」であるところに議論の手薄さを感じさせる。イーハブ・ハッサンの「昼間のスタイル」「夜のスタイル」の分類に負うところが大きい。
読了日:12月17日 著者:稲沢 秀夫
霧の壁 (1960年) (創元推理文庫)霧の壁 (1960年) (創元推理文庫)
おばあちゃんの死体を目の前にして受話器を握りしめている以前のことは何も記憶にない男。別れた妻、義兄、友人、おばあちゃんの友人の証言から、彼女を殺害したのは誰か、真相に迫っていく。あまり謎解きの面白さはないが、真犯人から目を逸らすためのデコイとして選ばれた人物が強烈なみみっちさで、読者を飽きさせない。記憶喪失になった主人公が簡単に広告代理店の仕事に復帰できるのは、「修行無用の世界」という皮肉だろうか。それにしても原題の'We All Killed Grandma'はすでに事件の結末を予測する題名である。
読了日:12月28日 著者:フレドリック・ブラウン

2011年に読んだ本まとめ
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