きびきびヒロイン大活躍−『アデル ファラオと復活の秘薬』感想

『アデル ファラオと復活の秘薬』をDVDで観ました。(Dir. Luc Besson, 原題: Les aventures extraordinaires d'Adèle Blanc-Sec、英題: The Extraordinary Adventures of Adel Blanc-Sec, 2010, フランス)

面白かったです!以下、内容に触れています。

時代は20世紀初頭。ヒロインはアデル・ブランセックというフランス人ジャーナリストで、ある事故のせいで頭に帽子のピンが突き刺さったままの妹の治療法を探し求め、エジプトやパリを舞台に大暴れする映画。

印象に残ったポイントを列挙すると、以下の通り:

1. パリの男性がほとんど全員カイザー髭を生やしている。当時の流行りなんでしょうか。
2. カイザー髭を生やしたパリ警察の刑事たちが、オヤジ・ギャグを飛ばしながらキャッキャウフフ。下らないフレンチ・ジョークを言ったあと我に返って「失礼」なんて言います。
3. ヒロインのアデルの美しさと知性を際立たせるためか、出てくる男性全員がイケてないか老人。確かに際立ってはいたけど、ヒロインのカウンターパートのような男性もいた方が面白かったのではないかなあ。続編に期待。
4. 序盤に登場するエジプト人がびっくりするくらい邪悪な面相。「これでいいのか?」と疑問に思うくらいオリエンタリズムに溢れた表象。人格を持っておらず、典型的な「邪悪な墓泥棒」として描かれている。「ジャンル映画に徹する」というベッソンの不遜な意志を感じました。
5. ジュラ紀の恐竜の専門家であるエスペランデュー教授というのが出てくるのですが、「翼竜を復活させる」など、教授というよりは魔術師。この時代の学者って歴史学とか文学とか明確にジャンル分けせずに学際的にいろんなことをやってたのかもしれないけど、この人は「部屋の中でポルターガイストを引き起こす」など、ちょっとマジカル。
6. 蘇ったミイラの医者がなぜかパリの伊達男のようなエレガントな立ち居振る舞い。流暢なフランス語を話します。
7. 終盤、あるやんごとなきお方が、将来のルーブル美術館の新設計を予言するようなことを言います。あのイオ・ミン・ペイによる大胆なリニューアルは賛否両論あったので、面白かったです。

さて、「そんなに可愛くない」など、批判の声もあったリュック・ベッソンの新ヒロイン、アデルを演じるルイーズ・ブルゴワン(Luise Bourgoin)ですが、私は「イイ!」と思いました。スクリーン映えするなめらかな肌艶で、ウェービーな長い茶髪も、画面に躍動感を与えています。キメ顔が石川遼君に似てる気がします。コーデュロイっぽい緑のドレスや、ミイラの前でストリップするときに履いていた白ストッキングなど、超オシャレです。

さて、この映画では、古くは男性の役割と考えられていたことを、お転婆なヒロイン、アデルが積極的に行ないます。「じゃじゃ馬ならし*1と言えば、「殿方がおてんば娘を飼いならす」という意味ですが、この映画ではアデルが映画序盤と中盤で二回も「じゃじゃ馬ならし」をします。あと、濡れ場ではないですが、二回男性を押し倒します。また、刑務所に閉じ込められた教授を何度も助けに行きます。昔は閉じ込められた場所にいるお姫様を助けるのは騎士の役目でしたが、今度は女性が飛び込んでいきます。先日観た『塔の上のラプンツェル』でも同じ構図がありました。

アデルの自由さは、男性との対比でも明らかです。男性はパリ警察でもエジプトのミイラ社会でも、組織に囚われた存在として描かれます。

それに比べアデルは徹頭徹尾、自ら決断し、行動を起こします。ここらへんも強い女性好きなリュック・ベッソンぽいなーと思いました。

唯一「これはいかん!」と思ったのは、あの美しいマチュー・アマルリック*2に、ほとんど原型を留めないような特殊メイクをほどこし、醜いマッドサイエンティストとして登場させたことです。本人も嬉々として演じているようですが、残念としかいいようがありません。ベッソンのバカ!

次回作があるような終わり方だったので、整形したという設定で、目の覚めるような美男子として登場させてくれることを願います。



アデル/ファラオと復活の秘薬 ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]

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*1:シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし("The Taming of the Shrew")は、乱暴者のヒロインが「調教」され、「妻は夫に従うべき」という持論を演説するまでになる話です。

*2:Mathieu Amalric, 『ミュンヘン』(2005)や『潜水服は蝶の夢を見るか』(2007)に出演。