That's mint!−『SUPER 8』感想

SUPER 8』を観てきました。(Dir. J. J. Abrams, Super 8, 2011. アメリカ)


以下、ネタバレ感想。

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粗筋は、以下の通り。「1979年夏、保安官の父と暮らす14歳の少年ジョーは、突然の事故で母親を亡くし、心に深い悲しみを抱えていた。ある夜、親友チャールズの8ミリ映画を手伝うために、夜中にこっそり家を抜け出して仲間たちの所へ向かうジョー。仲間の中には密かに想いを寄せるアリスの姿もあった。アリスが親に内緒で運転してきた車に乗り込み、駅に到着した6人の少年たち。列車の通過に合わせて撮影を始めると、突然、車が突っ込み大事故が発生してしまう。あたり一面が炎に包まれ、轟音が鳴り響く中、取り残された8ミリカメラが写したものは貨物コンテナの中から強大な力で外へと出ようとする“何か”だった。ほどなくして事故現場に到着した軍の回収部隊は、落ちていた8ミリフィルムの空箱を発見し、極秘情報が何者かに目撃されたと知り、大捜索を開始する。」(出典:映画『SUPER 8/ スーパー8』公式サイト http://www.super8-movie.jp/)


「少年たちは果たして短編映画を完成できるのか」という筋と、「軍が隠蔽しようとしていたものは何だったのか」という謎が、交錯して描かれます。


まず思ったのが、「長いメイキング映像みたいな映画だな」(←この時点でネタバレ)ということです。


脱線事故後、大人たちが右往左往するなか、少年たちが映画を撮っている様子が続きます。この少年たちが一人一人いいキャラをしているので、紹介してみます。

ジョー:本作の主人公。映画撮影では特殊メイクアップ係。Joeは『グレムリン』の監督Joe Danteから?
チャールズ:ジャイアンめいた横暴な監督。ゾンビ映画のためなら仲間の鉄道模型も爆破するゼ!
アリス:ジャイアン、…いやチャールズが頼み込んで出演してもらった主演女優。市井の子供らしからぬ演技力(演じるのはエル・ファニング)。
ケアリー:火薬係。爆発シーンのために爆竹を携帯している。歯列矯正器を歯につけている。イカレひょうきんキャラ担当。(いちばん好き)
マーティン:背が高くて、一人だけちょっと年長に見える。留年したんだろうか?短編映画ではトレンチコート着て主役を演じる。
プレストン:製作助手。パニックになると嘔吐する。何回も嘔吐シーンがあるので、需要があるのだろう。


Clash!:


この映画にはたくさんの衝突や爆発の場面が出てきますので、列挙してみます。


・母親が製鉄所で押しつぶされる(直接的シーンはないが、冒頭から母親の葬式で始まる)
・電車の脱線事故シーン(物凄い迫力!この大破壊のシーンだけでも観る価値がある)
・アリスの父の交通事故 (危ねえ、危ねえぞ…と思ってたらやっぱりガシャン!と「志村〜後ろ後ろ!」的シーン)
・鉄屑がガシャガシャ宇宙船にトランスフォームしていくシーン(超知的生命体である宇宙人が念力で鉄製品を集めて作ります。マグニートーか!)


これが「子供向けの映画」らしからぬ凶悪な迫力で、「子供をなめるな!」という気迫よりも、「子供に向けては作ってないんじゃないか」と思ってしまいました。「子供を主人公とした大人向け映画」という印象を受けました。私が子供だったら、「最後のエンドロールがいちばん面白い」と言うでしょう。「映画を撮る行為」に対し、憧れなりノスタルジーなりある程度の思い入れのある人でなければ、感情移入はできないのではないか、内輪受けなのではないか、という印象は拭えません。子供による車の運転や宇宙人による大虐殺など、アクションの要素をいろいろ入れて動きを導入し、観客が飽きないようにはしています。しかし「映画本編は物凄く豪華なメイキングで、エンドロールがご褒美」のように感じる時点でどうなんでしょうか。


輝くジャイアン監督:


撮影隊ではデブの少年がリーダー格で監督です。撮影中列車事故という大惨事に遭遇したのに、「ジョーの模型を使って撮り直そうぜ」と言い出します。どーかしてるぜ!


しかもアリスに出演を頼んだ動機が、「ただ単にお近づきになりたかったから」という、自らの欲求に正直すぎるけしからんものです。なんて愛らしいんだ。最後には、「俺はいいから先に行け」的な大活躍をします。正直、宇宙人との邂逅や父との和解などのくだりにあまり感情移入できなかったので、序盤からこの監督役の少年に感情移入して観てました。

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Super 8 English:


いくつか特徴的な英語の言い回しが出てきたので、メモ書き程度に。


"That's mint!"
よく"That's mint!"という言い回しが出てきました。調べたところ、「最高」「かっこいい」を表す形容詞だそうです。当時よく使われていたのでしょうか。少年たちのテンポの速いやり取りに、キレを与えていたような気がします。


"Production value!"
監督のジャイアンが、2回くらい言う台詞がこれです。一回目は真夜中の駅で撮影中、問題の貨物列車が通りかかったときに、こう言いました。「クオリティが上がるぞ!」と訳されていました。映画用語なんだろうなと思い調べてみたところ、以下のような意味らしいです。「プロダクション・バリュー:映画の照明、装飾、音響など映画制作における技術的要素:特に観客に対するアピールを高めるために強化した要素」(出典:『リーダーズ英和辞典』)。ジャイアン監督、十代前半にしてそんなことを意識しながら撮ってるとは、末恐ろしいです・・・。


"ROMERO CHEMICAL"
少年たちは本作がそうであるようなSF映画ではなく、"The Case"というゾンビ映画を撮っています。それに出てくる化学薬品会社の名称がこちらです。しかもこのゾンビ映画の内容は、軍の関係者がゾンビに関係する化学薬品の存在を隠そうとして、町の人々を犠牲にするというもの。それは『SUPER 8』自体に出てくる軍と町民との関係とも重なるのですが、示唆されているのはやはりロメロの一連の監督作品との関係です。軍が人間をゾンビに変える細菌兵器の存在を隠そうとするというくだりでは、『バタリアン』(1985年)といった『ゾンビ』と世界観において地続きの作品や、『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』(1972年)を思い出し、嬉しくなりました。

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スカイライン』との共通点:


映画制作者の夢を臆面もなく描いたという点で似ているような気がしました。『スカイライン』の方は「ロボットのVFXを作っているような映画制作者が住むL.A.に宇宙人が侵略してきて、ハリウッド映画のようなスペクタクル映像を自宅マンションから見せる」というものでした。『SUPER 8』の方は、「映画を撮っている最中に映画以上のスペクタクルに遭遇してしまう」という内容で、やはりメタ的な視点を感じます。

また、両方の映画で光が重要な役割を果たしています。『スカイライン』では青い光が人間を吸い込んでいました。*1SUPER 8』では最後に宇宙船が飛び去ったあとの残光が、映写機から出てくる光のように見えます。そのあとすぐにエンドロールで始まる光景を見れば、その残光が何に結実したのか分かります。(六本木ヒルズシネマで観ていたのですが、このエンドロールでは、拍手が起りました。)

ジャンル映画には先駆者へのオマージュがこめられているものも多いとは思いますが、この二本には特に、映画自体への愛を語った自己言及性や、メタ的な構造が見受けられました。

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正直、子供を主人公としていながら目線が酸いも甘いもかみ分けた映画好きの大人に向いているような気がしていまいちノレない作品でした。『ニュー・シネマ・パラダイス』もそうなのですが、映画愛=自己愛に感じてしまう作品は苦手です。目線は撮る対象に向けてほしいと思ってしまいました。


スカイライン』はトンデモ・エンディングで破綻してしまう快感がありますが、『SUPER 8』のエンディングは主人公の成長や思い出との決別が綺麗にまとまりすぎで、突き抜け感がなかったです。


いろいろ書いてしまいましたが、こんなに素晴らしいエンドロールは観たことがありません。「2時間待った甲斐があった!」と思わせるすばらしい「作品」です。

*1:この光と映画体験についての類似性の考察は、こちらのブログに詳しいです。→いずむうびい [2011年劇場鑑賞]脳内ロサンゼルス『スカイライン-征服-http://d.hatena.ne.jp/m-ism6021/20110620