静かな滋味あふれるギャング映画-『アイリッシュマン』

原作はCharles Brandtの"I Heard You Paint Houses"(2004)。


アイルランド系のトラック運転手フランク・シーランと、彼が殺し屋として仕えたイタリア系マフィア、バファリーノ一家とトラック運転手労働組合の委員長ジミー・ホッファの関係を描く。


ラッセル・バファリーノを演じるジョー・ペシの静かな演技がよかった。


Netflix映画はテレビや映画でうまくいった先行作品をアレンジしたり、そのままリメイクする手法が多い(『クイアアイ』や『テラスハウス』しかり)。この作品もNetflixが「御大、いつもの調子でお願いしますよ」とスコセッシに発注して作られたような映画だな、と思ってたら、意外にもスコセッシ映画にアル・パチーノが出演するのは初めてだそうで、デニーロとパチーノをスコセッシの監督で観るというのはある種の映画好きにとっては夢のような話だろう。Netflixは現代の夢工房としての機能を果たしてるんだなあ、と思った。


フランクの表彰式で彼とジミーが立って話し合う場面、刑務所でラッセルに「ジミーはいい奴だった。殺すのはやりすぎた」と言われ、フランクが目を伏せる場面がエモかった。


フランクの娘ペギーが年配の男たちの関係性をじーっと見ているのも、彼女の目線が彼らの判断に影響を与えているようでまったく与えていなさそうなのも、非情でよかった。しかし最後にフランクが老人ホームで「ドアを少し開けておいてくれ」と神父に言ったときには、以前夜中に人殺しのため外出する際にペギーが部屋から出てきて「どこへ行くの?」と言ったのを思い出していたのかもしれない。


Netflixで連続再生されたメイキング映像で、アル・パチーノがインタビュアー役みたいになってるのが何気によい。俳優陣の中ではいちばん理論的に演技を考えてそう。そのメイキングの中でスコセッシが、3時間29分もある映画であることにコメントを求められ、「いまは映画の鑑賞方法も変わってきてるから…」と言っていた。おそらく自宅鑑賞を前提に作られた作品。私も金土日と三日間かけて観終わった。だから映画館で鑑賞した人を、私は無条件に尊敬する。


しかしCGでの若返り撮影法といい、時代の変化に適応してるんだよなー、スコセッシは。アメリカン・ニューシネマ版『アヴェンジャーズ』みたいな映画でした。


全体的に「よかった」と「エモかった」としか言っていない感想になったが、静かな滋味溢れるよい映画だった。