(ネタバレあり) 現状追認ドラマとしての『アバランチ』

以下、ドラマ『アバランチ』のネタバレをしています。 

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タイトルは"Vigilante"(私刑を加える者)と"avalanche"(雪崩)をかけていたのだろうが、終わってみれば日本の現体制追認に終わる、とんだ腑抜けたドラマだった。

YouTubeで権力者の悪事を暴くという発想はよかったと思うが、現段階で最も不祥事が追及されるべき人物をモデルとしたキャラがいるにもかかわらず、野放しにするどころか民衆の声に耳を傾ける施政者として描いている。

森友問題、赤木ファイル、アベノマスクといった問題が山積みの人物を、よくこんなふうに「悪の官房長官に暗殺されかかった無邪気な最高権力者」として描くな、と心底呆れた。

主人公、羽生誠一が彼に必死で証拠画像の入ったデータ媒体を渡そうとし、それを安倍晋三をモデルとした郷原総理がSPの制止を無視して受け取ろうとする場面を観て、このドラマに対する私の気持ちは見る見る冷めていった。モデルは野次を送った一般人を警察権力を使って排除させた人物でしょうよ。美化が過ぎるぞ。

最終的にジャーナリストがアバランチの元メンバーを取材して、「日常をちょっとよくしたいったいうか…」というような自己実現の文脈に彼らの動機が回収されてしまう。

事実が明らかになったからではなく、大衆(+総理)が彼らの味方になったから勝ち、という「そのとき世論は動いた」的な描き方には大いに疑問がある。彼らの言う「雪崩」とは、ある感情に向けて大衆をコントロールするような陳腐なものだったのか。

リアルな世界で日本の権力者たちはすでに、「あの人のやったことだから正しい」(「アベノマスクは効果があった」)的な個人崇拝路線を推し進めているため、アバランチが動画を公開したところで現実は動かない可能性がある。現にこのドラマだって、「官僚に騙された無邪気な為政者」として安倍晋三を描いた。そういう意味ではこのドラマも現実におけるリアリティ・コントロールから逃れられてはいない。

日本で『ペンタゴン・ペーパーズ』や『スキャンダル』のような現実にある権力をダイレクトに批判するような映像作品が作られる日は遠いのだろうか。

悪役を熱演していた渡部篤郎や、静と動の対比を見事に表現した山中崇といった俳優の存在だけが救いだ。